Healing.
ミツキ様


 世界がこんなにも明るくいてくれるから、わたしもまた明るくいられるのです。




1.天気:雪。



冬になると水は凍るし風は冷たい。ついでに言うと雪も降る。
だから基本的にすいせいぞくっていうのは冬は嫌いだし、私も嫌いだった。
だからって暖炉の前にへばりついていても気がついたら眠ってしまっていていつも乾燥した肌にイライラさせられる。本当に冬は嫌いだ。


冬なんか無ければいいのに。
冬がなければこの街の周りは綺麗な紅葉のままでいられるし、みんなも寒い思いをしなくてすむ。カエルも冬眠しないし、カレントだって「薪代が……薪代が……」なんて呟く必要もなくなるのだ。
確かに雪の降る景色はそりゃわたしだって綺麗だと思わなくは無いけれど、でもそれだってしばらくしてしまえば溶けてしまうし、溶けなければ主にスィオルが雪かきに追われてわたしの相手をしてくれなくなる。なんにせよ、冬なんてなくなってしまえばいいのだ。


「そんなに寒いのはお嫌いですか、お嬢様」


「別に寒いのが嫌いというわけじゃないよ。冬全般全てが大嫌いなだけなの」


「そうですか」


喋りながら白いクレヨンを紙に塗りつけている私の言葉に、スィオルは別に否定するでもなく肯定するでもなくただそう答えた。その返事自体は別にありふれたもので、わたしが冬になるたびにそんな詰まらない愚痴を言ってしまうのもきっとスィオルは分かっているだろうから、きっとそう答えたのだろうけど。
ただ窓辺で黒帽子を片手に、一枚絵のように静止して雪化粧に覆われた街の景色を眺めるその姿が妙にハマっていたから、私は口を精一杯に尖らせて、まだ詰まらない言葉を口から吐いた。


「スィオルは冬が好きなの?
ならわたしとは仲良く出来ないな。わたしは本当に本当に、冬が嫌いなの」


ほら、こんなに肌もこんなにかさかさ。自分を指差すわたしにスィオルは、お嬢様はいつもお美しくございます、と無駄に堅苦しい言葉で微笑んだ。


「私は好きというわけではないですが、嫌いではありませんね。
雪で人を追いやすいとか、逆に逃げるときにはごまかしに使えるとか言うのもありますが、 何よりもこの喧騒のない静まった冬の気配が好ましいと思うのです」


「それは嫌いとか好きとかいうより便利かどうかだよね」


「返す言葉もありません」


しんとした静寂。
わたしはその静寂も嫌いなんだ、とは思ったけど言わなかった。クレヨンのかりかりとした音だけが響く。だいぶこのクレヨンも短くなってしまったなぁ。


窓の外には雪を被ったティニエントの街。わたしがクレヨンで塗る風景よりも不恰好に白一色な景色は、いつもの詰まらない街をもっと詰まらないものにしている。


「スィオルはどうせ夏に同じ話をしても同じことを答えるものね」


「夏の喧騒はあまり好きではありませんが、身を隠すには好都合です。
それに、仕事も多いですから」


「それはわたしの相手がつまらないという意味?」


「いえ、けしてそのようなことは」


「人前では慌てて見せるのにわたしとでは本当につまらないね」


「慌てて見せましょうか?」


「そういう冗談は本当につまらないよ」


わたしはためいきをついて広げていた紙をぐしゃぐしゃにしてクレヨンを投げ出した。真っ白な紙の上には、厚く塗りつぶされた白が一杯敷き詰められている。しわくちゃになった紙の上に一本、黒いクレヨンが落ちた。
一緒に指先ほどの白いクレヨンも投げつけておいたら、あらぬ方向に飛んでいったそれは赤い絨毯の上を転がってスィオルの靴にぶつかって止まった。


立ち上がって、クローゼットを開いた。街の風景からは覗けもしない緑色をした服がずらずらとならんでいるその中から、一番分厚い毛布のようなコートを取り出して被った。


「お出かけですか」


「お付はいらないよ。ちょっと歩くだけだから」


「そうですか。しかし冬にお出かけになるのは珍しいですね」


「わたし別に冬眠しているわけじゃないから」


スィオルの表情が、わたしが彼のつまらない冗談を聞いた時と同じ顔になったのを確認してから、部屋から出る。


「お嬢様、外にお出になるのなら是非長靴をお使いになってください。
お召し物が濡れずに済みます」


よし今日はお気に入りの赤い革靴を履こう。










2.天気:晴。



街を歩けば少しは風景が変わるかなと思ったけれど、良く考えれば見下ろすか横から眺めるかの違いしかないわけで、結局わたしが外に出て感じたものはやっぱり外は寒いなぁということと革靴で雪の中を歩くのはとても難しいというその二つだった。


振り返って屋敷の方を見ても、雪覆いの屋敷の向こうに冬の高くて冷たい太陽があるばかりで。手持ち無沙汰に赤い革靴で雪を蹴り上げて歩く。
実のところちょっと雪が染みてきて足が冷たかったりするのだけれど、その分屋敷に戻った時のスィオルの困り顔が酷くなるから気分的にはどっちもどっちだ。
蹴り上げられた雪はちらちらと光を反射しながら、通りに積もった雪の中に溶けていく。
周りから見ればなにやらやけっぱちな少女が雪にやつあたりでもしているように見えるのだろうけど、目の届く範囲に人影はないからそんな心配は要らない。
まあ事実だけど。
せせこましい事だけどそれでも一応村長の娘としてそういう態度は人前ではなるべく出さないようにしているのだ、一応。


「そもそも冬というのがなんとなしに冬だなぁというだけであってはっきりしないのが悪いのよ」


だって冬でも食べ物は取れるし、暢気な紅葉は今更雪の中でひぃひぃ衣替えしている。
春風が暖かくてこれは冬も終わりかなと思えば急に寒くなって挙句の果てに冬に逆戻りとか言い始める。一体なんなんだ冬というのは。


意味のない独り言も雪の中ではすぐに溶け入ってしまう。昼の日差しに焦がされた雪面はまだ新しいわだちもそのままにタイルのように日光は反射するけれど、わたしの愚痴の相手まではしてくれない。無口な白壁に蹴りをくれるように強く足踏みして、私は当て所も無く歩いた。


ここまで来るとわたしの行動もどこかおかしげに見えるけれど、その実まさにその通りでわたしはおかしくなっているのです。まる。
本当は冬になると村の行事が何も無いからとことん暇で7日間引きこもって絵を描きまくったあげく8日目に書く対象にさえ困り代わり映えのない街の雪景色を白紙に書くという苦行に手を出して9日目に飽きてついに外に飛び出ただけ。


そもそも白紙の紙を私に渡してきたのはスィオルだから、原因の2割くらいはスィオルのせいかもしれない。8割は冬のせい。


「暇ー。暇ー。スィオル相手してよー」


「そんなにお暇でしたら是非私の仕事を手伝っていただければ……と思いますがそれも難しいのでこれで遊んでいてください。飽きたらまた何か考えます」


「なにコレ?」


「紙です」


「いや見たら分かるよ」


「年末の事務関係の片づけで余ったものをお持ちしました」


「紙でお嬢様に暇を潰せって言うのも中々無理を言うね」


「いや紙は絵も文章も書けますし、折って形を作ったり飛ばしてみたり色々と出来るものですよ」


いうなりスィオルは紙を一枚とって素早く手を動かすと、手の中には一羽の鳥が出来ていた。わたしがうわぁと分かりやすいリアクションを取ると、スィオルも恐縮ですと分かりやすいリアクションをした。ぽんとテーブルにおかれた紙の鳥に触れると、軽く魔力の残滓がした。なんだ魔法かよ。


「ということで紙だけならいくらでもありますのでご自由に遊んでください。そういえばかつての貴族の御子女の方々は紙で文章や手紙を書くのが主な時間の潰し方だったとか聞きますので、お嬢様も真似されては」


「この紙がなくなればどうするの」


「追加を持ってきます」


「飽きたら?」


「別の余った事務用品を差し上げます」


思い起こすとスィオルが原因の8割な気もしてきた。ぐりぐりと革靴を雪に押し込む。


年末も迫ればいやおうなしに家の仕事とか村の仕事とか、お父様やスィオルについていったり人に連れて行かれたりするけど(因みに用事に見せかけられて誘拐されかけたことが一度だけある。その時の話は話し出すと止まらないけどともかくスィオルの本当に焦った時の顔がいつもの無表情が輪をかけて無表情になるということに気付いて可笑しかった)、それまでは向こうも遠慮してくれるのかどこかに呼ばれたりすることもないし、相手側から来ることもない。
ごくごくたまにエレインがその親と一緒に来るかな、こないかな、それくらい。
しかもそれも大体は親同伴で、


「ご機嫌いかがですか」


「ななめです」


「それは大変ね」


みたいな社交辞令を交わすだけだしあまり意味があるとも思えない。スィオルに頼んで二人で絵本よろしく抜け出してみたこともあるけど(考えてみるとスィオルって魔女役にぴったりじゃない?)、後でスィオルがこっぴどく仕置きを受けることになることが分かったのであまりしていない。



いやわたしも本当は知ってるんだ。


雪塗れで店を開きもしていないその奥。小さな路地で、あるいは空き地で、わたしと同じくらいの年の子供達が遊んでいるのを。
雪を蹴ったり、雪をぶつけ合ったり、丸めて身動き取れないようにして飾りをつけて散々馬鹿にした後粉砕したりそんな冬を蹴散らすような遊びをしてきゃいきゃい笑っているのは知っているんだ。
実はこの静かな通りにも、その声が今も小さく木霊するように聞こえているのには気付いてるんだ。


でもわたしがそれに混ざるのは無理な相談なの。
なぜなら私は特別な人だから。ほら、魔女っぽい人も側にいるしね。


空笑いくらいじゃ遠い笑い声の木霊は耳から消えなかった。










3.天気:雨。




その日はどっさりと前日の雲が雪を降らしていてくれたからか、雪が積もっている割によく晴れて暖かい日だった。自分をカエル扱いするのはなんとなくしゃくだけれど、ともかくカエルだってちょっとした陽気に誘われて巣穴から飛び出してくるのだって良くあること。
その日のわたしもそんな感じで特に何を考えるでもなく外に飛び出して行っただけだった。そしてふと路地裏に繋がる暗がりに興味を持った。それだけのこと。


でもカエルだってそんな好奇心で穴に飛び込んでみたら蛇の巣穴でした、なんてこともあるわけで。別にわたしは取って食べられたわけではないけど気分的にはそんな唐突な気分だった。


路地裏を何の気なしに歩いていると、開いたところに出たところで声をかけられた。空き地らしいそこには5,6人の小さな子供の男女が雪塗れで笑っていた。ちょっとした恐怖シーン。


「おーい、お前どこの子だよー! 見たことないぜー」


「おれ知ってるよ。村長さんの所のアニスとかいう子だろ」


「ねぇ、アニスちゃん、さっきから男の子多くて女の子不利なの! 味方して!」


子供というのは不思議なもので、お互いの素性も知らず、場合によっては名前もロクに覚えずに一緒に遊んだりするものだけれど、この場合のわたしはそれに当てはまった。初めてやった雪合戦。初めて作った雪ダルマ。
初めて作ったヘタクソな雪ウサギを、「へたくそー」と言われながら壊されたのも初めての思い出だ。わたしは結局その初めて作った雪ウサギを壊した相手の男の子の名前を覚えなかった。


でも逆に彼らはわたしの名前を絶対に覚えていると思う。だって突然壊されたことに気が動転したわたしがおもわず魔法を使ってしまったからだ。


この街は、他の街に比べて魔法や魔法を使う魔族に優しい、というよりそういうことを気にしない人が多いらしい、ということは聞いていた。だからわたしもあまり何も考えずに遊びに混じったし、その時は、それまでは自分がことさら特別だとも思っていなかった。


でも気にしないということは、決して使ってもいいってわけじゃない。
剣を使う人間が側にいても気にしない人は多いけれど、だからと言って剣を向けられても平気な人がいるだろうか?
少なくとも私は相手がたとえスィオルでも剣を向けられたら物凄い驚くと思うし、物凄い怖がると思う。
つまりはわたしはそれをやってしまったわけ。
周りの人が急に駆けつけてきて、わたしも後でお父様にこっぴどく叱られたのはまだ覚えている。


「魔族だからといって簡単に魔法を使っちゃいけない」


その時は言われてもちんぷんかんぷんだったけど、すぐに分かった。


もちろんその時あそんでいた子の中にも魔族はいたけれど、わたしの魔法は特に――少なくとも遊びで使っていいようなものでは決してなかった。冗談で済むレベルじゃなかった。
その時の私は訳分からなくなっていたから全く覚えがないんだけれど。でも怒ると自分でも良く分からないうちに魔法を使ってしまうのは分かったし、ついでに、そういうことをすると次から同じように遊べなくなることも分かった。


だってみんななんとなく避け気味だし、他の子には全力で雪玉をぶつけてるのにわたしには簡単に避けられるようなのしか飛んでこない。広い空き地でみんなで遊んでるのに、自分だけひとりぼっちのような感覚。そのうちそうされるのも嫌になって、路地裏には遊びに行かなくなった。仲良くなった女の子とかもいたけど、名前も忘れてしまった。



冬になると水は凍るし風は冷たい。ついでに言うと雪も降る。だから冬は嫌い。
そういうことにしている。










4.天気:光。



そうしてわたしは革靴とコートのすそを散々に雪塗れにするだけして屋敷の方に向かって戻っていた。


元々、別にすることもなかったから数十分といっても時間が潰れた分まあまだマシというものだろう。気分はあまり変わらなかったけれど。雪解け水でがぽがぽ言う革靴をひきずるように歩く。
もしかしたらお気に入りのこの靴も次は履けないかもしれないけど、この場合明らかに悪いのは自分だから文句は言わない。ていうか、多分スィオルが魔法で何とかしてしまうだろう。打算的なわたし。


だから今歩き辛いのは仕方が無いところ。


まあ雪が降り積もっているだけだから躓くものもない。えっちらおっちら、生まれたての子牛みたいな歩き方で進む私の前に、ふとある家の敷居が目に入った。


「……雪ウサギ」


姉妹でもいるのだろうか、ちょうど子供くらいの高さをした敷居の上に大小2つペアの雪ウサギが、いくつか並べられていた。もしかしたら親子かもしれない。
大きな方のウサギは綺麗に整えられていたが、小さな方は形が悪くて所々崩れてしまっていた。多分日の光で解けてしまったのだろう。


歩く速度が遅かったからか、それとも行き道はそんなことにさえ気付かないくらいイライラしていたのか。多分後者だろうなぁと思いながら敷居に近づき過ぎないくらいに雪ウサギを眺めた。
そういえば、あの時作った雪ウサギも名前を忘れた彼女の作った方が大きくて綺麗で、悔しかった記憶がある。今から思うとあの女の子は多分自分より年上だったから当たり前なんだけど。


「そういや今ならもうちょっとマシなの作れるかなぁ……」


適当に雪を手にとって、歩きながら形を整えてみようとする。


「……んぅ」


べしゃ、と音を立てて落ちる雪の塊。良く考えてみたら雪を手に取るのもいつ振りだろうくらいの勢いだ。いきなり一回目で上手く作れるはずも無い。
しかも歩きながら、しかもしかも水のたまった靴でだ。一回目は無理だろう、一回目は。
仕方ない。滑る滑る。仕方ない、仕方ないよね。


ということで二つ目。


べしゃ。


三つ目。


べしゃ。


四つ目。


 ……こねこね。お、今回はとりあえず取り落とさずにいけた。


「……でもこれただの雪玉だねどうみても」


雪は当然しばらく持っていれば溶ける。気がついたときにはもうすでに雪は形をとることさえ叶わずただの雪玉と化していた。うぬぬ。とりあえず腹いせにどこか遠くに投げ飛ばして再び雪を拾う。


こねこね、べしゃ。こねこね、べしゃ。こねこね、べしゃ。


「中々手ごわいねこれは……」


こねこね、べしゃ。


こねこね、こねこね、べしゃ。
こねこね、こねこね、こねこね、べしゃ。


こねこね―…
「……一体何をなさっているのですか、お嬢様」


「あれ? スィオル?」


雪玉をこねているうちにいつの何か屋敷までついてしまっていたらしい。屋敷の門の前で影法師のようになって立ちすくんでいるスィオルがいきなり話しかけてきた。はっきりと呆れ顔である。してやったり。
と、なにか恥ずかしさのようなものが爆発して、思わず手の中のそれを隠そうとして、


「あぅ」


「……何をなさっているのですか」


「これはどうみてもこけただけです」


「だから長靴でお出になるようにと言いましたのに」


「だから革靴でお出になってみました」


「危うくかわいらしいウサギが犠牲になるところでした」


いつの間にかわたしの手を離れてスィオルの手の中に納まっている雪ウサギ。スィオルが軽く本当のウサギを撫でるように一撫ですると、光の加減かウサギが輝いて見えた。多分この雪ウサギはメスに違いない。絶対そうだ。


「返して」


「お嬢様がとりあえず屋敷まで戻られましたら」


「……仕方が無い」


人質ならぬウサ質を取るとは中々にスィオルも卑怯だ。思いつつ私はさくさくと先を進んでいくスィオルを水で一杯になった靴を鳴らしながら必死に追いかけた。良く考えたらあの雪ウサギは実に初めて破壊されなかったウサギではなかろうか。
必死に追いかける私を尻目に、ウサギ片手にたまに立ち止まりながら悠々と歩いていくスィオル。自分も革靴の癖に卑怯な。こうしてみるとだんだん彼の手の上にいるウサギも恨めしくなってくるから不思議だ。


必死に歩く先に黒い影を見つけて上を見上げると、ウサギ片手の決まらないスィオルがいつもの表情で街の方を眺めていた。膝に手をついて上がっていた息を整える。今更だけど歩幅が違うのだからスィオルが楽なのは当たり前だった。
大きく冷たい息を吸って吐いてから、スィオルと同じように街の方を見た。太陽の光で雪解けを始めた街は、出かける前見た冷たい白じゃなくて、どこか暖かい白をしていた。


「ところでそのウサギはどうするつもり」


「大事に取っておきます。折角なので」


「魔法でもかけておくの」


「いえ、冷凍庫に入れておきます。その方がらしい気がするので」


「足が冷たいわ」


「屋敷に戻ったらすぐにお風呂を沸かしますので入ってください」


「……せめて私が暖めましょうかくらい言ってくれないの?」


「ご希望ならしますが」


「気持ち悪いから早くお風呂に入れさせて」




5.Ending


風呂上りに冷蔵庫を覗き、ついでに冷凍庫を覗いてみたら冷凍肉とか乾燥野菜とかを押しのけてど真ん中に不恰好な雪ウサギが鎮座していた。せめてこう、端の方に置くとかそういう配慮をしてほしかった。もう面倒だからそのままにしておいたけど。決してなんとなく誇らしかったとか嬉しかったとかそういう気持ちではない。決して。


部屋に戻ると、ベッドに飛び込んだ。雪で遊んだ後はなんだか物凄く疲れるというのを、そういえば思い出した。全身が重くなったような、でも心地いいような、不思議な感覚に襲われながらふとテーブルの上を見た。


そこには部屋を出る前にわたしが投げ出した紙とクレヨンが纏められておいてあった。ついでに、しわくちゃにして捨てたつもりだった白いクレヨンが塗りたくられた紙も、しわを何とか広げられた上に黒いクレヨンと指先サイズの白いクレヨンが乗せられている。
どうやらスィオルはあの行動が「あとで描くから取っといて」だと判断したらしい。さすがにどうかと思う。まあ絵は後で片付けよう。と、ふと思いついた。


重たい体を起こして、クレヨン箱から一本取り出し、紙の上に転がした。
それでわたしのからだも限界だったのか、全力で脱力感と眠気を訴えたので、仕方なしにそれに従うことにした。


ベッドに再び横になり、テーブルの上を見た。


白く塗られた紙の上には、小さな白いクレヨンを挟んで、黒と緑のクレヨンが並んでいる。


今度はエレインとか他の人も一杯集めて盛大に雪遊びしたいな。そこまで思って、わたしの意識は眠りの中にすぐ落ちていった。 



++++END






年末はカレント以外大忙しのようです。
見た目が文系なんでスィオルは酷使されてんだろうなぁ(笑

ミツキ様ありがとうございました!

【夜終】