――そもそもなんで俺がこんな羽目に遭っているのか分からない。 しとしとと降り続く雨は、傘も持たずに飛び出した俺を嘲笑うように、止む気配を見せない。 通りの店の軒先から覗くように空を見れば、飛沫のように細かい雨と曇天の空。 開いていないのかそもそも潰れているのか明かりのない店の軒先は狭く、寒さに体を縮込ませても足の先に雫が染みた。 じわりと肌まで染み込んで来る雨の冷たさに、俺は身震いする。 視線を下ろせば、閑散とした店が通りに並んでいる。いつもならそれなりに人やらなにやらが歩いているはずの通りも、ここ連日のこの雨では足並みも遠くなるのか、音を立てているのは時計屋の旋盤の音と石畳を叩く雨音だけだった。 我知れず、吐息が漏れた。白い息は目の前を揺らめいて雨に消える。 重たい息だった。 なんとなく気が滅入るような気分になって、背中を壁に預けて息を吐いた。 冷たい。 背をつけたのは壁でなくてガラスの窓だったらしい。でも一度預けた体を起こすのも面倒で、そのままにした。 ――なんでこんなことになったんだったっけ。 冷えた体で腕を組み、俺はほんの少しだけ目を閉じた。
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